糖軍群雄の記

Interview #8

生地を形づくり、
甘さを添えて、
砂糖はお菓子に
働きかける。

石屋製菓株式会社
宮の沢工場 工場長
小針 学さん
(札幌市)

1997年3月、石屋製菓株式会社に入社。製造部門に配属され、宮の沢工場、2017年に操業を開始した北広島工場での勤務を経て、商品開発室にて新商品の企画に携わる。2022年5月より現職。

近年は甘さを控えがちといえど、
お菓子と砂糖は切っても切れない間柄。
砂糖をうまく使いわけて、
「しあわせをつくるお菓子」をつくる人がいます。
これは、糖軍『小針 学』殿の探求の物語——

銘菓「白い恋人」には
年間516トンの砂糖が使われる

石屋製菓(以下ISHIYA)は、昭和22(1947)年にデンプン加工業として創業、その後、ドロップスや駄菓子を製造するようになります。昭和40年代には洋菓子製造へと舵を切り、昭和51(1976)年に「白い恋人」を発売しました。それから48年、工場の移転や新設があり、もちろん製造スタッフも世代交代していますが、変わらないおいしさを守り続けています。そして、いまも「白い恋人」はISHIYAの主力商品。北広島工場と、私が工場長を務める宮の沢工場で1日最大140万枚を製造することができます。

ご存じのとおり、「白い恋人」は、ラング・ド・シャ(薄焼きのクッキー)にチョコレートをはさんだお菓子です。主原料は砂糖、卵白、小麦粉、全粉乳。最も大量に使用しているのは砂糖です。クッキーの焼きあがりとチョコレートの味の決め手になりますから。2023年度の砂糖の仕入量は、「白い恋人」に使用する分だけで年間約516トンです。

甘さはしあわせのモトであり、
砂糖はお菓子の骨格である

お菓子と砂糖は切っても切れない関係です。近年は「甘さ控えめ」を売りにしたお菓子もありますが、それでも砂糖は入っていますから。好みの甘さは人それぞれとはいえ、甘いお菓子は人を幸せな気持ちにするのだと、私たちは考えていて、「しあわせをつくるお菓子」をつくっていると自負しています。

お菓子づくりに、砂糖の甘みは欠かせないもの。しかし、お菓子を甘くするだけが、砂糖の役割ではありません。たとえば、メレンゲをつくるとき、卵白に砂糖を加えて泡立てますね。あれは、砂糖が卵白の水分を吸収することで、水っぽくならず、ふわっとしたきめこまかい泡ができます。砂糖を入れないと、ツノが立つほどは固まりません。この「泡立ちがよくなる」という働きは、砂糖の親水性、つまり水になじみやすいという性質によるもの。その性質があるから、砂糖は、食材から水分を取りさる「脱水作用」、食材の水分を抱き込む「保水作用」を発動して、さまざまに働きかけ、お菓子をおいしくするのです。

砂糖には、食材の硬さや粘りを変化させる働きもあります。たとえば、クッキーの生地。小麦粉に混ぜる砂糖の量によって、硬くなったりやわらかくなったりします。ちょうどよい厚さに伸ばすには、砂糖のさじ加減がとても大事です。その意味で、砂糖はお菓子の骨格づくりを担っているといえます。また、クッキーにこんがりとした焼き色がつくのも、砂糖の働き。小麦粉や卵などに含まれるタンパク質と反応して、褐色へと変化し、香ばしい風味を生み出します。

「白い恋人」でおなじみのホワイトチョコレートは、砂糖なしでは成り立たないと言っても過言ではありません。というのは、ミルクチョコレートやダークチョコレートとは異なり、苦みや渋みのあるカカオマスを使用しないからです。主原料は、カカオ豆の脂肪分であり、味らしい味のないカカオバター、全粉乳、砂糖。ホワイトチョコレートのクリーミーな甘さは、全粉乳と砂糖の味なのです。

砂糖は水を制御して、
お菓子を長持ちさせる

「白い恋人」をはじめ、ISHIYAの商品はお土産としてお買い上げいただくことが多い。なので、賞味期限は重要です。新商品を開発するときは、おいしさができるだけ長持ちするように、原材料やレシピを考案します。このとき、いい働きをしてくれるのが、砂糖です。先ほど、砂糖には脱水作用と保水作用があるとご説明しました。この働きによって、食品の水分活性を低く抑えます。どういうことかというと——。水分活性とは、酵母や細菌などの微生物が増殖に利用できる水分量です。なので、ケーキなどの洋生菓子は水分活性が高いので傷みやすく、クッキーなどの焼き菓子は水分活性が低いので日持ちします。ただ、砂糖に防腐効果があるとはいえ、たくさん入れればよいというわけでもないので、甘みや食感とのバランスを考えながら、砂糖の分量を決めていきます。

ひとくちに砂糖と言いましたが、「グラニュ糖」「上白糖」「粉糖」を使いわけています。どれもてん菜やサトウキビから取れるもので、基本的な働きは変わりません。ただ、味や香りに違いは出るので、ほかの原材料との相性を考えながら、そのお菓子に最もふさわしいものを選んでいます。

商品開発の難しさでもあるのですが、一つひとつの素材がどれだけよくても、これ以上はない絶妙な配合を計算したとしても、実際に組み合わせてみると意図しない事態は起こるものです。また、いい素材を組み合わせさえすれば、いい商品ができるというほど、お菓子づくりはシンプルでもありません。たとえば、バターはおいしく、香りもいい。でも、水分量が多く、あまり日持ちがしません。そこで、ほとんど油脂でできているマーガリンを混ぜてみたり、保水作用の優れた甘味料トレハロースを多めに入れてみたりして、原材料の調整と試食を繰り返し、最終的なレシピを決定しています。

お客さまと一緒に育てていく、
長く愛されるお菓子をつくりたい

「白い恋人」というのは、手作業での製造から始まり、機械化して、現在の宮の沢工場では1分間に約660枚をつくれるようになりました。いまでは、日本国内にとどまらず、海外のお客さまも多くなっています。これほどロングセラーとなったのは、やはりお客さまがあってこそ。お客さまとISHIYAが一緒に育ててきたお菓子なのです。

お客さまとともに商品開発をすることはありませんが、お客さまの声をお菓子づくりに生かす仕組みは設けています。それは、接客を担当している販売・営業・白い恋人パークのスタッフが、リアルなお客さまの声をもとにアイデアを出し、それをもとに各工場の開発チームがレシピを開発し、試作品をつくるというもの。このスタイルは、ISHIYAの企業理念・長期ビジョン・行動指針を体現しています。

まず、企業理念は「しあわせをつくるお菓子」。お菓子はしあわせを測るバロメーターであると考え、お客さま、地域、社員をしあわせにするお菓子をつくることを謳っています。その企業理念のもと、「100年先も、北海道に愛される会社へ」という長期ビジョンを掲げ、その実現に向けて、「おかしな仕事をしよう」「プロ意識で仕事をしよう」「安心・安全な仕事をしよう」「チームで仕事をしよう」という行動指針を設けています。いま、全社をあげて、ISHIYAの理想とするお菓子づくりができていると実感しています。

お菓子には、打ち上げ花火のように、そのひとときを華やかにするものも必要です。一方で、「白い恋人」のように、シンプルではあるけれど、時代も世代も問わず、長く愛されるお菓子をつくり、育てていきたいとも思っています。それは、お菓子づくりを生業とする我々の夢ですね。

白い恋人パーク チョコトピアファクトリー

施設情報 白い恋人パーク
チョコトピアファクトリー(工場見学)

札幌市西区宮の沢2条2丁目11-36/TEL 011-666-1481(10:00~17:00)

営業時間/10:00〜17:00(最終受付16:00)※年末年始は変更あり

休館日/なし

入場料/おとな800円、こども400円、3歳以下無料
※札幌市民料金・団体料金・特別割引あり(詳細はホームページ要確認)

● ホームページ/https://www.shiroikoibitopark.jp/

トップに戻る