糖軍群雄の記

Interview #4

食物アレルギーのある
子どもたちのために
砂糖で幸せをつくる。

hokkaido komekono oyatsu WAKKA 店主
辻 かおりさん
(札幌市)

調理師学校を卒業後、ケーキ店・カフェなどでの勤務を経て、2017年に「hokkaido komekono oyatsu WAKKA」を開店。グルテンフリー、卵不使用の米粉のおやつを焼き続けている。

お菓子を食べると幸せな気持ちになるのは、
ふわっとして、サクッとして、甘いから。
食物アレルギーの子どもたちを笑顔にしたくて、
米粉とてんさい糖でおやつをつくる人がいます。

これは、糖軍『辻 かおり』殿の挑戦の物語——

食物アレルギーのある子もない子も
同じおやつが食べられる場づくりを

私が営む「hokkaido komekono oyatsu WAKKA」は、北海道産の米粉を使った焼き菓子のお店です。主なメニューは焼きドーナツとクッキー。一般的なレシピでは小麦粉と卵を使います。でも、私は小麦粉も卵も一切使用していません。小麦アレルギーや卵アレルギーの子どもたちにも安心して食べてほしいからです。

幼い頃からお菓子づくりに興味がありました。母がよくクッキーを焼いてくれたとか、わが家に伝わるレシピがあるとか、そういうことではなく、好奇心と探究心をそそるものだったのでしょうね。弟とふたりで「甘いものが食べたいね」「小麦粉と砂糖と牛乳を混ぜて焼いたら、何かおいしいものができそうじゃない?」と言いながら、いろいろと試していました。キッチンを散らかすだけ散らかして、たいていは失敗するので、そのうち調理全般を禁じられましたね…。その体験が、カフェオーナーになりたいという夢につながったのだと思います。そこで、料理やドリンクを本格的に学ぶために調理師学校に進学しました。その当時も、卒業してからケーキ店やカフェで働いていたときも、自分が菓子店を開くとは想像すらしませんでしたね。

WAKKA開店のきっかけは、子どもたちの食物アレルギーを知ったことです。まず、自分の子どもの小麦アレルギー・卵アレルギーが判明しました。そのときは深刻になることもなく、「ごはんもおやつも、小麦粉と卵さえ使わなければいいのね」と軽く考えていましたね。ただ、これがなかなか難しい。小麦粉の代わりに米粉を使い、卵を入れずにつくると、おいしくならないのです。材料や配合をいろいろと変えながら、おいしさを追求しました。試行錯誤を重ねて完成させた味は、WAKKAのレシピにも活きています。そうこうするうちに子どもが2歳になり、保育園の給食をつくる仕事を始めました。園児たちが何よりも楽しみにしているのが、手づくりおやつ。でも、食物アレルギーのある子たちは同じおやつが食べられません。クッキーはクッキーでも、小麦粉と卵のクッキーと、米粉だけのクッキーでは味も食感も異なります。栄養士とともに努力はしたけれど、どれだけ工夫を凝らしても保育園でできることには限界があって…。それで、食物アレルギーのある子もない子も、同じ空間で同じおやつが食べられるといいなあと思い、WAKKAをオープンしたのです。

WAKKAのお菓子には
「てんさい糖」が欠かせない

お菓子は甘くて、ふわっとしたりサクッとしたりと食感のよいことが大事だと考えています。もしドーナツやクッキーが硬いうえに甘くなかったら、なんだかがっかりしてしまいませんか? だから、私はしっかりと砂糖を使ってお菓子をつくっています。使用しているのは、オリゴ糖の入った「てんさい糖」。コクと甘みが強めで、素朴なお菓子によく合うのです。糖度が高いためなのか、焼き色もきれいにつきます。いろいろな砂糖を試してみたけれど、いま使っている「てんさい糖」がベストでしたね。

もうひとつのこだわりが、北海道産の材料を使うこと。それは、昔から言われているように「自分の暮らしている土地でとれる旬の食材が体にいい」と考えているからです。北海道に生まれて育って、北海道の気候のなかで生きている私たちには、北海道でとれるものがやはり体に合っていると思います。それは、砂糖にもいえるのではないでしょうか。沖縄産サトウキビからつくられる砂糖よりも、北海道産てんさいを原料とする砂糖のほうが、私の体には合うような気がするのです。もちろん、おいしさや甘さに優劣はありません。また、よその土地のものを食べて健康を害したわけでもありません。ただ、地元のものを食べたい、北海道にはおいしい食材がたくさんあるから積極的に使いたいと常々思っているので、北海道でとれたものを食べると元気が出るのかもしれないですね。

目から鱗が落ちた
「ビート資料館」での体験

帯広市にある「ビート資料館」はご存じでしょうか。日本甜菜製糖株式会社の帯広製糖所があった場所に建てられた資料館です。てんさいの栽培から砂糖になるまでの工程、てんさい糖業の歴史などが学べます。数年前、帯広に行ったときにたまたま立ち寄りました。館長さんが館内を案内しながらいろいろと説明してくださったのですが、その話がおもしろくて! 一番印象に残っているのは、「てんさい糖はもともと白い」という話です。世の中には、「茶色の砂糖はよい砂糖、白い砂糖は悪い砂糖」「白い砂糖は漂白されている」といった噂が信じられていたりしますよね。でも、館長さんによると、てんさい糖はもともと白いし、茶色の砂糖と成分は異ならないというのです。調理師としての知識と経験はあるけれど、砂糖を熟知しているわけではなかったので、そうだったのか!と目から鱗が落ちました。それからは、後ろめたさや不安もなく、上白糖やグラニュー糖を使っています。

幸運なことに、私は館長さんにお会いできたので、てんさい糖の正しい知識が得られました。でも、砂糖は悪者だとまだ誤解されていると思います。砂糖の真実が広まって、甘いお菓子を心から楽しんでくれる人が増えるといいですね。

お菓子は甘いからこそ、
特別な時間をつくりだす

お菓子屋というのは幸せな仕事だと、つくづく思います。一番うれしいのは、子どもたちの笑顔が見られたときです。小麦アレルギーや卵アレルギーの子たちが、はじめてドーナツを口にして「これがドーナツなのか!」と喜んでいる姿は忘れられません。  子どもは、ふわっとした口あたりの甘いものが大好きです。だから、小麦粉でつくるドーナツのようにやわらかな食感にしたくて、試行錯誤を重ねました。米粉やコーンスターチ、豆乳、てんさい糖など、さまざまな材料を試して、配合を変えて、1年以上かけて完成させたのが、いまのレシピです。そのドーナツを喜んでもらえたら、やっぱりうれしいですよね。WAKKAを始めてほんとうによかったなあと思いました。

お菓子のすばらしさは、食べると幸せな気持ちになるところ。いつものコーヒータイムも、おいしいお菓子があるだけで、ちょっと特別な時間になりますよね。でも、お菓子から甘さをとってしまったら、特別感がなくなる気がします。やはりお菓子は甘くないと!一度にたくさん食べるものではないから、大人も子どももときどきは自分を甘やかして、その甘さを楽しんでもよいのではないでしょうか。これからもお菓子をつくり続けて、みなさんに特別な時間を届けたいですね。

いまはまだ難しいけれど、WAKKAを地域にどんどん開いていきたいと考えています。学校帰りの子どもたちが気軽に立ち寄って、みんなで宿題をしたり、アレルギーのある子もない子も同じおやつを食べたりできる場にしたいのです。あと、中断している「米粉のお菓子づくり講座」も再開したい。WAKKAのレシピにどんどんアレンジを加えて、米粉のドーナツやクッキーを、それぞれの家庭のおやつにしてもらえるといいですね。

hokkaido komekono oyatsu WAKKA(ワッカ)

辻 かおりさんのお店 hokkaido komekono oyatsu
WAKKA(ワッカ)

札幌市南区澄川5条3丁目3-57 / TEL.011-839-3362

● 営業日/HPをご確認ください ● 営業時間/11:00〜15:00
● 定休日/不定休 ● メニュー/焼きドーナツ、クッキー、ガトーショコラなど
● ホームページ/https://wakka.crayonsite.net

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