糖軍群雄の記

Interview #9

白い砂糖も三温糖も、
食事とおやつになって、
アスリートをつくる。

【写真 左】
北海道コンサドーレ札幌
しまふく寮 寮母
大地 忍さん
(札幌市)

2014年、3代目寮母として着任。寮監である夫の則昭さんとともに寮生の生活を支える。「息子たち」に体当たりで向き合う、厳しく優しい「お母さん」。

【写真 右】
北海道コンサドーレ札幌
しまふく寮 調理師
松浦 沙耶花さん
(札幌市)

2007年、調理師として着任。アスリートフードマイスターの資格をもち、選手の体づくりや健康管理、心のケアを食事面からサポートしている。

砂糖の噂には誤解が多いけれど、
脳と体のエネルギーになるのは事実。
毎日の食事に砂糖を上手に使って、
北海道コンサドーレ札幌を支える人がいます。
これは、糖軍『しまふく寮』の大家族の物語——

北海道コンサドーレ札幌
しまふく寮の食卓

大地「しまふく寮」は、北海道コンサドーレ札幌の若手選手寮です。入団3年目までのプロ選手と、アカデミー(サッカークラブの育成組織)U-18に所属する高校生が生活しています。彼らが安心してサッカーに打ち込めるように、生活面を支えるのが、寮母の私の仕事です。

松浦私は調理師として、食事面から寮生たちをサポートしています。メインの仕事は、朝・昼・夜の3食の調理です。ただ、今年はプロ選手4人とアカデミー生18人の大所帯なので、私一人ではとても手が回りません。なので、分業制にしました。朝ごはんとアカデミー生のお弁当18個は大地さん、プロ選手の昼ごはんと夜ごはんは私が担当して、アカデミー生の夜ごはんは厨房スタッフ2人が交代で作りにきてくれます。

食事の時間は決まっていて、全員がダイニングに集まるので、なかなかにぎやかです。ランチタイムは、アカデミー生が高校に行って不在ですが、寮生以外のプロ選手たちも昼ごはんを食べにくるので、やっぱりにぎやか。しかも、練習のあとでテンションが上がっているから、明るく楽しい食卓になります。

アスリートの体をつくるのは
白米と栄養フルコース型の食事

松浦アスリートの食事は、いわゆる「栄養フルコース型」です。これは、「主食」「主菜(肉・魚・卵など)」「副菜(野菜・海藻など)」「果物」「乳製品」の5品目すべてがそろう食事のこと。体をつくる「タンパク質」、エネルギーになる「糖質」「脂質」、体の調子を整える「ビタミン」「ミネラル」が、バランス良く摂取できます。

とくに重要なのは、糖質。人間にとってのガソリンにあたり、体を動かすときには欠かせない栄養素です。エネルギー不足だと、練習でも試合でもまず走れません。ときにはケガにつながることも。だから、糖質をしっかり摂るため、しまふく寮では「白米を食べる」を鉄則にしています。1食につき200g〜250g(丼1杯程度)は食べてほしい。ごはんが進むように、おかずの味付けは工夫のしどころです。メインディッシュのソースや煮物、ほうれん草の胡麻和えなどは、砂糖で甘じょっぱくしています。砂糖はエネルギー源にもなりますから、控えることなく使いますね。

大地私も料理には砂糖をよく使います。煮物にもうどんの出汁にも、どんな料理にも隠し味として砂糖を入れるのです。しまふく寮で1カ月に使う砂糖の量は、3kgから5kgくらい。大所帯とはいえ、消費しているほうかもしれません。

北海道コンサドーレ札幌は、昔から「食育」を重視していて、アカデミー生たちは、年1・2回、管理栄養士の栄養講習と栄養指導を受けます。さらに、しまふく寮では、松浦さんから「白米」と「栄養フルコース型」の話を聞いているから、日々の食事の重要性は理解しているはず。この寮で規則正しく、真面目にごはんを食べてトレーニングに励んでいた子たちは、プロ選手になっても活躍しています。

松浦しまふく寮は、サッカー選手としての体をつくる場。毎日3食しっかりとって、トレーニングをして、よく寝て、食べて……をコツコツと繰り返すなかで、栄養が蓄積されて、アスリートの体になっていくのです。とくにアカデミー生に言い聞かせているのは、栄養は食品から摂るのが大事なのだということ。彼らは、「太りたくない」「筋肉をつけたい」と、白米を控えてプロテインを飲もうとしがちです。でも、ごはんを食べてエネルギーを満たしておかないと、せっかくのプロテインが筋肉にはならず、体を動かすエネルギーとして使われてしまいます。まずは、ごはんをしっかり食べなければいけません。毎日毎食、丼めしを食べていたら、たしかに体重は増えます。それを太ったと勘違いするわけですが、じつは体づくりには欠かせない過程です。トレーニングによって、体は引き締まっていきますから。

プロ選手の場合、試合前日の夜は380gのごはんを食べます。その糖質をエネルギーに変えてくれるビタミンB1を多く含むので、おかずは必ず豚肉料理です。そんなふうに試合に備えて食事で栄養を摂るプロ選手を目の当たりにすることは、アカデミー生たちの糧になっているのではないでしょうか。

サッカー選手は甘党!?
エネルギー補給には和菓子

松浦アスリートにとって、食事と同じく大事なのが「補食」です。通常の食事だけでは摂りきれない栄養やエネルギーを、間食で補います。補食をとるタイミングは、だいたい練習の前後です。プロ選手は、食事管理も仕事のうち。自分に不足しているものを考えて、しまふく寮ではヨーグルトやグラノーラを食べているようです。アカデミー生には、練習前、おにぎりとバナナを用意しています。

大地試合のときは、プロもアカデミーも関係なく、おにぎりとカステラ、大福を持たせます。あとは、きなこ餅! 切り餅を砂糖たっぷりのきなこでまぶしただけの簡単おやつですが、一番人気の試合食です。1回に3つは食べる選手もいますから。やっぱり腹もちがいいみたいですね。

松浦和菓子は、エネルギーとなる糖質が多いものの、バターなどを使わないぶん脂質が少ないので、試合食にはおすすめです。運動で消費したエネルギーをすぐに補えますから。

大地サッカーは試合の90分間、とにかく走り続けなければいけません。途中出場のときも、ピッチに入った瞬間からトップスピードで走らなければいけない。すごいことですよね。うちの選手たちを見たら、「きなこ餅を食べてきたんだな」「昨日の夜は白米たっぷり食べたんだな」と思ってください。

息子たちのお祝いに、
母たちの休憩に甘いスイーツ

大地しまふく寮は、サッカー選手を育てるためにあるから、いろいろと制約があります。ただ、高校入学と同時に親元を離れてがんばっている「息子」たちを見ていると、食べることにはちょっと喜びを与えてあげたいと思ってしまうのです。体づくりに悪影響を及ぼさない範囲であれば、あまり締めつけなくてもいいのかなと。

寮生のなかには、私と同じ「納豆に砂糖を入れたい」派がいます。それくらいの願いはかなえてあげたいですよね。あと、アカデミー生の誕生日にはケーキを用意して、お祝いしています。みんな、喜ぶんですよ。今年は人数が多いから、カットされたケーキを何種類も買ってきて、主役が選んだあとは、ジャンケンで勝った人から選んでいく方式にしたところ、真剣勝負を繰り広げていました。

松浦差し入れでケーキをいただいたときも、若者らしく大喜びしていますよね。砂糖の摂りすぎは体脂肪を増やしてしまうため、アスリートは要注意です。でも、たまの息抜きにケーキを食べるくらいはまったく問題ありません。

砂糖には、リラックス効果や疲労回復効果があるといわれています。それに、脳のエネルギーにもなるので、アスリートには欠かせない集中力も高まります。だから、適量を上手に摂りたいですよね。

大地私たちもときどき砂糖を補給しています。しまふく寮の一日はなかなか慌ただしい。そのなかで時間を見計らって、松浦さんが「ちょっと手すきになるから、お茶しませんか」と声をかけてくれるので、そんなときはエクレアやあんみつで一息いれています。

松浦お茶の時間は、情報共有の時間でもあります。いま、食事のしたくを分業制にしているから、時間をつくらないと大地さんとも厨房スタッフとも話ができないのです。でも、それぞれが寮生や寮の状況を把握しておかないと適切にサポートできませんから。そのための重要な「作戦会議」であり、私たちのエネルギー補給タイムでもあります。しまふく寮は、寮生たちが「今日のごはんは何かな?」とわくわくしながら帰ってくる「家」であり続けたいですね。

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